儀式のはじまり
野上祇麿《儀式のはじまり》 1979(昭和54)年/キャンバス、油彩/162.1㎝×112.1cm/射水市蔵
画面上部の中ほどに、毬(まり)のような物体が細密に描かれています。小宇宙のようなものを宿していると思える「毬」は、野上の作品によく登場し、画家のシンボルマーク的な存在と考えられています。祭儀の佳(よ)き日にふさわしい快晴の空を漂っているかのような「毬」は、下村加茂神社で毎年9月恒例の「稚児舞」の装束イメージを再構成したものとも言われます。とすれば、画面左端に並ぶ11個の円は同社の各月の神事や祭礼か、赤の直線や緑の色面は時の流れや神社の参道かと想像がふくらみます。迷いのない簡潔な画面構成の中に、画家の原体験から展開された、豊かな情趣を感じる作品です。